AEVE ENDING
「橘に全くの非がないとは言わないけど、あれだけの過去を背負った状態で不安定じゃないわけがない。考慮を」
雲雀が面と向かって言えば、男は小さく頷いたようだった。
「認めよう」
それは免罪符。
全ての項目に置いて許されれば、倫子は処罰を問われない。
「二つ目に関しては、感情が限界まで高ぶり正しい判断ができない状態だった橘に、アナセスが容易に接触したことに問題がある。大人しく引っ込んでいればいいのに、「アナセス」としてなにをしたかったのか知らないけど、無知ゆえに橘の自尊心を傷付けた」
あの時のことは、まさに虫酸が走るほど不愉快だった。
なにも知らない美しい女が、傷付き縋るものもなく揺れている橘を愚弄する。
(…お陰で、ますます橘の劣等感が高まった)
つまり彼女を慈しむ機会が伸びに伸びたということだ。
あの虫螻、と胸中でアナセスに悪態を吐く。
正面の男は吟味するようにこちらを見ていた。
睨まれているわけでもないのに、肉体に刃物を突きつけられているような感覚。
「…認めよう。―――認めるが、多少、私情が入り込みすぎのようだ」
「嫌いなんだ」
「アナセスは美しいだろう」
「僕は美しいものは好きじゃない」
「己もか?」
「殴るよ」
「…ククッ、相変わらず愉快な子だ」
男は雲雀を気に入っていた。
アダムとしての力を買われているのか、この性格が珍しいのか。
(どちらにせよ、この男は橘に借しがある)
「第三については、…まあ、言わずもがなか」
口にするのも嫌だ、とばかりに露骨に表情を出せば、男はまたくつりと嗤った。
「これは、僕の件だ」
倫子には一切の関係はない。
寧ろ、被害者の立場になるのだから、この件についてはさして弁明もなかった。