AEVE ENDING
「…帰ったか」
極力出力を抑えたテレポートで、西部箱舟にある自室へと戻った雲雀を一番に迎えたのは鐘鬼だった。
真横には真醍が大の字で爆睡している。鼾がうるさい。
「―――橘と真鶸は?」
見渡して見当たらない人物を尋ねる。
尋ねたところで所在など、わかりきっているのだが。
脱いだ上着をソファへと掛ける雲雀を一瞥し、鐘鬼は倫子の部屋へと視線を向けた。
「部屋で寝ている」
「…ふたりで?」
「離れたくないと泣いてな」
その時のことを思い出したのか、鐘鬼の口許が柔和に歪んだ。
丸くなったのは自分だけではないらしい。
「泣いたって、どっちが」
「小さいほうだ」
―――まぁ、本音は橘を独りにしたくなかったのだろうが。
言外で言付けられた言葉に、よくやったと内心で真鶸を褒めてやる。
あっけらかんと笑っているとはいえ、倫子の不安定な精神状態は変わらない。
「諮問はどうだった」
真醍の鼾を縫って尋ねてくる鐘鬼に一瞥をくれながら、雲雀はソファに腰かけた。
諮問を思い出すと同時、倫子を取り巻いていた不快な輩のことまで思い出してしまった。
自然と眉が寄った雲雀を見て、釣られるように鐘鬼も表情を険しくする。
「…まさか、」
罪を問われるのか、と続く筈だった言葉は真醍の一際大きい鼾に掻き消された。
「…橘も僕も無罪を認められたよ。正当防衛で」
それに乗せるように発せられた言葉に安堵する。
倫子の過去を知っているだけに、もし判決が有罪ならば酷すぎると考えていたのだ。
無罪であったとして、あの過去が消えるわけではないが。