AEVE ENDING
「―――見て」
そんな倫子に、雲雀は自分の左手を差し出した。
攻撃されるのかと思い肢体を強ばらせた倫子に笑みを向けながら、雲雀は口を開く。
「傷」
言われて見れば、雲雀の綺麗な中指に、絹糸のような傷がひとつ。
(…あの時の、)
爪先に、微かに皮膚を抉った感触がまだ残っている。
それを見た倫子は、今度は別の意味でぶすくれた。
「……ちっさ」
自分が体感した痛みと比較したら、なんかもうズルいとしか言い様がない。
「確かにね。けれどこの僕に傷を付けるなんて真似、そう出来ることじゃないよ」
しかし雲雀の評価は違ったらしい。
思っていた以上で、愉しかった、と。
「自惚れですか」
「褒めてるんだよ」
「嬉しくねーよ!」
負けたのに。
こっちは愉しむ余裕すらなかったっていうのに――この男は。
倫子は床を睨みつけたまま、苛立たしげに地団駄を踏んだ。
ぶすくれた倫子はとんでもなく不細工だったが、そんな倫子を前に雲雀は満足気に笑った。
まるで都合の良い玩具を手に入れた気分なのだろう。
それもなかなか手に入れられないような希少価値。
これは、手元に置いて遊ぶくらいの価値が、充分にある。
(…そう簡単に、壊れそうもないし)
ヒトの嫌いなところは、すぐ壊れてしまうことだ。
「…なんだよ、」
柔らかく美しい微笑を浮かべたままこちらを見ている雲雀を、訝しんでいる。
玩具――倫子が、身長差分の下から、睨み付けていた。
「ねぇ」
あぁ、本当に。
「死にたい時は僕を呼んで」
君は最高の、玩具だ。
「―――君にぴったりの、最高の死に際を、あげるよ」