AEVE ENDING






「…まだこんな時間なの。早いよ」

固まったまま動かない倫子を良いように抱き締めて、あろうことか脚まで絡めてきた。

あ、あし?


「…僕が寝てると、積極的なんだね」

心臓が今にも皮膚を喰い破らんとしているというのに、それを素知らぬ顔で無視をする。
抱き抱えた倫子の目尻に頬を擦り寄せて、好き勝手に唇を押し当ててくる。

形勢もなにもあったもんじゃないが、これは完全に逆転された。


「…ちょっ、うわ、オイ、」

柔らかく吸い付いてくる唇に焦る。
半分、乗しかかるように凭れてくる体が厭わしい。


「ねむい…」

ちゅう。
耳を塞ぎたくなるような音を立てた唇からはそんな一言。

寝惚けているのか。

(なんてタチの悪い…)



「寝れば」

首筋に埋まる頭を撫でてやれば、そのまま皮膚に吸い込まれるように眠りに落ちた。

―――と、思ったが。




「っぎゃあぁあああ」

夜着の下になにやら這ったかと思えば、むぎゅり、鷲掴みにされた感触に絶叫した。

鷲掴みである。
なにをって、…乳を。


「…煩いな。もっとマシな声で鳴いたら」
「黙れぇええっ!ふざけんなこのオヤジ!エロスはテメーの存在だけにしろ!って、ぎゃああぁっ」

また揉まれた。
そんなまさか、ひきちぎるような勢いで。

「ひきちぎるって…、ひきちぎられるほど膨らんでないでしょ」
「…っ殺す!」

むぎゅ。

「テメーいい加減にしろよ…!」
「―――ん、そうする…」
「は?」

ねむい。
言ったが早いか、ことり、胸に張り付いていた手は再び背中へと回り、すぐさま雲雀は意識を手放してしまった。

「……」

柔らかな表情はそのまま、落ち着いた寝息が途切れることはない。
心臓の上下を見るにしても、猿真似をしているわけではないらしい。

「寝惚け…」

ていたのかなんなのか。

釈然としないまま二度寝を遂行した後、完全に覚醒した雲雀に覚えているか尋ねれば当然、覚えていたわけで。


「…まな板」

いけしゃあしゃあ。
真鶸の前で呟いた雲雀に朝一番、脳内が沸騰した。

相変わらず、押せば流れる柳のような様に、見た夢の内容など忘れてしまった。




君の秘密を教えておくれ。

そこに絡む因果や悲しみを未だ君が背負うのならば、僕は。





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