AEVE ENDING
「危険です」
起床してすぐ、洗顔と雲雀との悶着を済ませ、いざ食事に向かおうと扉に手を掛けた倫子に真剣な声で一言告げられた。
発言者は真鶸。
きっちりと着込んだ東部の制服が愛らしい。
見ようによっては雲雀のミニチュア版だ。
本人と比べ色気はなくとも、愛くるしさは断トツ超過。
しかしその愛らしい容姿は、今は神妙な表情で、それが少しばかり寂しい。
「なにが?」
キケンです。
反芻する台詞。
兄はといえば、我関せず。
窓辺でひとり紅茶をたしなんでいる。
「昨日、あんなことがあったのに外に出るなんて、絶対、危ないです」
途切れ途切れに吐き出された言葉。
言い辛いことを無理に言葉にしているのは、この子が優しいからだ。
それは倫子を、「犯罪者」だと認知しているも同じ。
本人は構やしないというのに。
そんな必死に言われれば厭やは唱えたくない。
唱えたくはないがしかし、それではちと悔しい。
「大丈夫。今までと変わらないよ」
印象は悪くなる一方だろうが。
雲雀によれば、箱舟連盟の判決は「無罪」。
雲雀がどんな手を使ったか知らないが、「無罪」であることに変わりはない。
今頃は箱舟中に通達されているだろう。
「大体、無罪だろうが有罪だろうが、私は悪いことしたなんて思ってないから」
最近、あれやこれやと騒ぎが続き、忘れていたものを思い出した。
己のふてぶてしいまでのタフさ。
「…ふたりの父さん母さんに怪我させたのは、悪かったけど」
これは可愛いこの子のための嘘。
冗談でもそんなこと思っていない。
しかし倫子に罪悪がないのと同じで、真鶸に罪はないのだ。
なにも知らぬ真鶸にとって、あれはなかなかショッキングなシーンであったと自覚はある。