AEVE ENDING
「たちばなぁ!」
今日も今日とて怒声が響き渡る。
午後、予定通り行われた実践訓練。
アダム全員が揃う巨大なホールで、東部箱舟教師の梶本は相変わらず同じ名前しか叫ばない。
「うるさい」
真鶸に重力操作を指導してもらっていた倫子は、その大声をさらりと無視する。
それを遠目で見ていたロビンは、らしくなく、本当にらしくなくハラハラしていた。
隣にはニーロとアナセス、そして彼らと強引に組まされた雲雀がいる。
ジニーは野次馬精神を恥ずかしげもなく発揮し、倫子がよく見える場所へと駆けて行ってしまった。
「橘!」
そんな中、ざわつくホール内で尚も響き渡る梶本の怒声。
怒り心頭に達した梶本が倫子の頭を鷲掴む。
真鶸が悲鳴を上げて制止を求めるが、倫子は危ないから下がってなさい、と姉ぶって言った。
「…君のパートナーだろ。なんとかしなくていいの?」
今にも殴られてしまいそうな倫子に、思わず雲雀を見て言ってしまった。
自分でも失言だとわかっているが、しかし。
先程の怪我だってあるし、なによりタチバナミチコは女なのだ。
(…まさか俺がタチバナミチコの心配をするなんて)
そんなロビンを驚いたように見るニーロと、何もかもわかっているような穏やかな笑みを浮かべるアナセス。
涼やかな表情のままの雲雀は、ロビンに一瞥をくれてまた倫子へと視線を戻した。
「…橘なら、ひとりで大丈夫だよ」
僕がなにもしなくても、折れないから。
そう淡々と漏らした雲雀に、しかしロビンは引き下がれない。
「そういう問題じゃないだろ!タチバナミチコは怪我もしてるんだ!」
自分でも恥ずかしいまでに叫んでしまった。
何故、雲雀の態度が気に入らないのか。
しかしこれには雲雀も違和感を覚えたらしく、ム、と唇を閉じた。
「だからなんなの。君には関係ないでしょ」
冷ややかに打ち捨てられた事実に喉が詰まる。
しかし、そうこうしている間に梶本が拳を振り上げた。
「見てたら」
思わず助けに入ろうとしたロビンを一言で引き止め、雲雀は口許に笑みを浮かべている。
―――それは、信頼か?