AEVE ENDING
ざわめきを増す異質な空間で、けれど雲雀が俯けていた顔を上げた。
倫子は気が抜けたように雲雀の胸に頭を寄せていたが、ひくり、ひくりと跳ねる肩が、無駄に俺を引き付ける。
「…ひば、」
りさま、と続く筈の音はしかし紡がれることはなかった。
「―――…っ、」
ぞ、と足下から天辺まで突き抜けたのは、畏怖。
あまりの圧力に膝が笑っていた。
取り囲んでいたアダム達の中の数人が、重圧に耐えられず尻餅を着く。
冷や汗が、伝う。
「ただ鳴くしかできないなら、黙って飼い慣らされていればいい。主人の意に反する家畜は、首を跳ねられて死ぬだけ…」
そうして倫子の体を抱き抱えた雲雀は、下等な生き物を卑下するように辺りを見下していた。
過激な台詞はしかし、反乱分子を生み出すような生半可さはない。
―――絶対的な屈伏、心棒。
普段から鋭さがある目許は珍しく苛と細められ、眉間は不愉快だと寄っている。
こちらがいたたまれなくなるほど、精錬された男の怒りに。
泣き出す者も、立ち崩れる者も、脅えた眼を曝す者も、いた。
ただのヒトならばここまでの圧力は受けまい。
精神、身体に直接訴え掛けてくる、純正の意識。
純度の高いそれに触れて、己の核が腐ってゆく。
(組み込まれた破滅の遺伝子―――神は、そうだ)
「…彼は、神に遣わされたアダムを滅ぼす者」
アナセスの小さな囁きが、凍りついていた場を融解する。
ゆらり、そちらを見た雲雀―――いや、「修羅」はただ静かにアナセスを見つめたまま、消えた。