AEVE ENDING
「…アンレ、雲雀?」
部屋を出たはいいが、食堂で夕食を取るのも、そこで倫子と顔を合わすのも面倒だということに気付く。
暇潰しに箱舟内に在る書庫にでも寄ろうと回廊の筋を曲がったところで、今まさにいけすかない人物に声を掛けられた。
無視。
「え、ちょ、待てよ、雲雀」
視界の端を煩わしくよぎる金色―――真醍の物とは質が違う柔らかなそれ―――を擦り抜けて目的地だけを目指して歩く。
障害物は避ければ良いだけだ。
「お、おい、ま…、」
音もなく肩に置かれた手を取り急ぎ払い落とす。
汚い。
死ね。
「なんだよぉおおっ、無視するなよ!」
叩かれた手を擦りながら、ロビンが情けない声を出した。
それを無視して再び進むが、喧しいそれは後を付いてくる。
カツン、カツン、カツ…。
二人分の革靴が無駄に不協和音を作り出し不快だ。
吹き抜けの回廊を駆け抜けていく海風がただ静かにふたりを促していた。
どこに、とは問わずもがな。
傷だらけの娘は罪深いその身を貶めながら血を吐き出し進んでいく、前へ。
「―――そういえば、外交官夫婦の容体はどうなんだ?」
黙って雲雀についてきていたロビンからふと掛けられた声には窺うような色が含まれている。
本当に尋ねたいのは、そんなことじゃないだろうに。
「さぁ…、なにも言って来ないところを見れば、順調に回復してるんじゃない」
思いの外、他人行儀な言葉が帰ってきた。
重体である父母を思う息子のものではない。