AEVE ENDING





「…なんだそれ。見舞いには行かないのかよ」
「君、バカ?私用で箱舟から出るには許可が必要なんだよ」

―――いや、実の親が死にかけてるかもしれないのに。

思わず口を突きかけた言葉を寸前で飲み込む。

下手に突っ込まないほうがいいと、雰囲気で察した。
下手に踏み入れれば、倍のしっぺ返しがくるに決まってる。



「それに」

カツリ。

「僕がここを離れれば、橘が無事じゃ済まないからね」

雲雀が障壁として在る今でも、その影で倫子に制裁を加えようとする者がいるのだ。
以前にも増して増えた物騒なそれには、雲雀とて頭を抱えた。

倫子自身は意に介してないようだが、橘倫子というアダムの排斥へと向かっている箱舟の胎内の変動は思ったよりずっと性質が悪い。

今は今、と片付けられたとして、いつかはアダムとして社会に出た時に、この箱舟時代の影響が出ないという保証はなかった。

(…もっと最悪な先を考えれば)

現実味を帯びたそれは仮想などではなく確実に、倫子と雲雀を引き裂き腐敗させるもの。


「それにしたって、実の親だろ」

非難するようなロビンの声色が響く。
周囲にいたどうでもいい人間達からよく言われていた言葉だった。


『実の親に実の息子が、互いにあんな態度をとるなんて』
『彼にあの親は相応しくなかった』
『あの、冷たい目』
『親を親とも思わないような―――』

それらはどこか耳に心地好さを運ぶ。

中傷であろうが侮蔑であろうが、「彼ら」に気を赦すくらいなら彼らを殺したほうがマシだった。


『腹を痛めて産んだこどもを』

そうして無防備な母は、僕に真実を伝えられずにいる。



「なんだよ…」

こちらの非難になんの反応も示さないまま、ただ先を進む雲雀にロビンは不満げに唇を尖らせた。

持ち出していい話題でもなかったか。





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