AEVE ENDING
『地上に墜落した、神様のこどもをね』
古い記憶は混沌。
ゆっくりと墜ちていく無力な体はただ何者かに受け取られることだけを待ちながら。
『今日からここが、あなたのおうちよ』
そこは目が潰れんばかりに輝く真白の世界だった。
己が本来いるべき場所とはかけ離れた、体がおかしくなるほど清廉された空気と消毒された造り物の箱庭。
『君は、美しいね』
そうして初めて顔を合わせた男は自らが発した言葉をそのまま返しても構わないほど整った容姿を持っていた。
穏やかに緩められた目尻は、ここと同じく。
(つくられた、嘘)
幼かった僕は彼に頭を撫でられ抱き上げられるのだろうかと、期待とも願望とも違うところで―――それが本来存在しない筈の脚本に書かれたひとつの演出であるように―――考えていた。
『美しいね』
息を飲むほど、美しいけれど。
『僕に似ていない』
そうして彼に抱かれた記憶も慈しまれた記憶も僕は得られなかったし、得ようとも思っていなかった。
彼は僕が不自由しないための食事と寝床とそして普通以上の英知と教養を得るための機会を与えてくれた。
形ない「愛」をもらうよりずっと自身の役に立つ。
母にあたる女性はやはり彼と似たようなものだった。
僕を愛でたいがしかし、彼に背くような真似はできない。
或いは、「彼」に息子として愛されなかった時点で「僕」は彼女にとって無用の長物でしかなかったのだろう。
後々に産まれた「真鶸」という愛らしい弟は見事「彼」の愛を手にし、「彼女」にとっては最高の息子となった。
予めそうなる運命だったのだろう。
―――破壊の遺伝子を持つ者。
『やっと、顕れたね』
彼らに愛でられていれば、神がもたらした唯一の破壊者は腑抜けになっていただろうか。
それでは、ダメなのだ。
『何故ならば、アダムは』
破滅されるべき、この星にとっての異物。
組み換えられた不自然な遺伝子はなにより、人類の罪だった。
『破壊者に情は要らぬ』
『すべて消し去る冷酷さを、育てていけばよい』
抱かれる腕の暖かさを、神は知らない。