AEVE ENDING
「…あいつといると、思い出すよ」
ぽつり、呟かれた言葉。
それはまるで、懺悔か言い訳だ。
「…なにを」
なにを、ねぇ、倫子。
お前が、あの「修羅」に、なにを感じるの。
「―――私を今にも殺そうとする、痛み」
それは罪が現実の痛覚となって私を貫く証だ。
「…能力差が、摩擦を起こすんだよ」
ただ、それだけ。
絶句した奥田に、倫子は言葉を変えて言い聞かせるように、語った。
海は静かで、波は荒立たない。
(「波」というものは、「世界」が生きている証なのだと、あんたが教えてくれたのに、…奥田)
「私があの痛みと引き替えに手に入れたものは、あいつの足下にも及ばない」
届きはしない距離に、ただ絶望する。
「…悔しいの、倫子」
奥田は小さく、そう問うた。
「…そんなんじゃないよ」
倫子が緩やかに口角を上げる。
それは奥田にも確認できたが、自然に沸き上がったものであるのか、故意に作ったものなのか、肝心なところが、判別できない。
「ただ、あいつの力の気配はね」
あれほど、脅えていたのに。
「うん」
いつ喰われるか、いつ喰われるかと、絶望と暗闇の境で。
「好きだと、思ったよ」
絶対的な光は、変わらずに在ったのだ。
「屈服される。例え命と引き替えにしても、及ばない圧倒的な力の差に」
目には決して見えないはずなのに。
「…うん」
私の「胎内」は、とくりと反応を返している。
「―――真っ直ぐで、綺麗だ」
まるで無垢で純粋な赤ん坊を、この腕に抱いているかのようで。
みちこ。
呼んだ筈の名前は、もう声にはならなかった。
あぁ、これは、とてもとても、都合良く事が運んでいる証拠なのではなかろうか。
奥田は湧き上がる一種の快感に粟肌立ち、ぞろりと身を震わせた。
競り上がる背筋の震撼に、心臓が跳ね上がる。
「奥田」
ふと気付けば、倫子がこちらを睨み付けていた。
「あんたの思惑を、私は知らない」
うん。
うん、それでいいよ、倫子。
「私には関係ない」
例え操り人形の如く望み通りに動こうが、意志に反して裏切ろうが。
そこに意志があるならば。
「私は、好きにするよ」
―――それが正解。