AEVE ENDING
「お前達が今から向かうのは、旧文明で栄え、今はもう廃虚と化した巨大な建築物だ」
梶本の言葉と共に奥田が顔を上げる。
耳鳴りがしたと思えば、視界を奪われた。
代わりに荒い海面から顔を出す、おぞましいまでに廃れた鉄の造型物が眼球を通して写し出される。
(精神系キネシス…。全員の波動にシンクロして、イメージを流し込んでるんだ)
普段、バカをやっているわりになかなかどうして侮れない男、奥田たきお。
二十七歳、ロリコン疑惑浮上中。
「我々は、常より環境の劣化を食い止めるべく様々な方法で地球環境に挑んできたが、なにより最重要項目は海洋の美化である。海洋の汚染を多少でも食い止めることができれば、毒素蓄積で減少の一途を辿る難民の救済にもなる」
何故ならば、政府からろくな保護を受けていない難民達は自身で飲み水の確保をしなければならない。
しかし、枯れ果てた土地に河川など存在しないわけで―――、つまり汚染された海水を蒸留させて飲み水にしているのだ。
だが、危険値を上回るほど汚染された海水がその程度で無害な飲み水になるわけもない。
日々蓄積されていく毒素は彼らが成人した頃、牙を剥く。
そして、毒に冒された母親の母乳を飲む赤ん坊も同様―――死のループである。
「以前、雲雀くんが難民地区で汚染されていない水を地中から引き上げたように、浄水を確保できれば無害な飲み水はおろか、それを利用して田畑も作ることができる」
梶本が声高らかに言えば、アダム達の賞賛たる視線が雲雀に集中した。
当然、それをやったのは実際には倫子なので、雲雀はうざったそうに目を細めている。
「科学者達も日々、海水汚染に取り組んでいるが、その基盤となる場所が必要だという。今回、その建築物を破壊した後、その下に埋まっている汚染物質を取り除き、開発された浄化機器の設置をするまでが仕事だ」
昔から開発されてきた浄化機器だったが、更に新しいものが開発されたらしい。
これで多少の足しになるならいい。
全国で苦しんでいる難民達を思えば、それに費やす労力など安いものだ。