AEVE ENDING
「…当たり前デショ。俺は、お前に、幸せになって欲しいんだよ」
そこでやっと、奥田は力を抜いた。
緩んだ顔面が全体的にアイタタな笑みをつくり、見ちゃいられない。
「よく言うよ」
すかさず倫子も、いつもの軽やかな口調に変えた。
「嘘じゃないもん」
「もん言うなって。イタいキモいクサいの三拍子揃っちゃったじゃん」
「え!くさ!?クサい!?俺が!?まさか!」
騒ぎ立てる奥田をよそに、倫子はわざと視線を反らし、にやりと笑って見せる。
「…加齢臭ってさぁ、その年齢で漂いだすとほんと気の毒だよね。―――あ、ごめんね、本人の目の前で」
わざとらしいが、効果はテキメンだったらしい。
「…かれいしゅう」
ショックの余り漢字変換もままならない憐れな中年男に、倫子はあっけらかんと言い放つ。
「まぁそんな落ち込むなって」
いい加減ここに極まれり。
「みんないつかオヤジになっていくんだよ。年頃の娘にいやがられてウザがられて、さようなら。中年オヤジのマイナスポイントが早々ときちゃったくらいなにさ。落ち込むなよ!元気だせ!」
爽やかすぎる笑顔が、とどめを刺した。
「そろそろモンダミンとか使ったほうがいいんじゃない?キスん時に加齢臭なんか漂ってみなよ。百年の恋も醒めるわー」
そしてまさかの新兵器登場である。
(モ、モンダミン?そこまで?)
加齢臭男·奥田たきお、再起不能である。
「お、俺は、百年の恋なんてしてないし……」
しどろもどろ。
既に中年の威厳もなにもない。
「中年オヤジが「百年の恋」なんて口にする時点で物凄い破壊力だね」
―――復讐されている、と気付くには遅すぎたかもしれない。
「…あ、も、お前、喋る凶器。あイタ…」
「イタいのはあんたの頭ん中だよ」
「ちょ!みっちゃん!今日酷くない!?先生のクリスタルな心が粉々だよ!」
クリスタルはそう簡単には砕け散らない。
(ウザー…)
倫子は半眼で奥田を見た。
「あ…今の効いた。さり気なくを装い、わざわざテレパスを流してまで俺を痛めつけるその性悪さには勝てない」
真面目な話はどこへやら。
馬鹿馬鹿しい会話へと華麗に転換された奥田とのコミュニケーションに、倫子は笑った。
それを合図に奥田は倫子の隣に腰掛けると、咥えていた煙草に火を点ける。
禁煙はやめたのか。