AEVE ENDING
「オーマイガッ…」
そう口にしたのはロビンだった。
目の前に現れた「それ」は、まさに「神よ」、だ。
薄闇に天高く聳えるそれは、戦前高らかに存在を主張していたのだろうが、今や廃れたただの「山」と化していた。
元は「高層ビル」であっただろうその表面は雨風に曝され、鉄骨が原型を辛うじて留めている程度。
中階位置に剥き出しになっている広いエントランスに一先ずは集合という形になった生徒達は、その異様な空気に唖然とした。
澱んだ空気は今にも無知なこどもを喰らおうと手招きしているようだ。
「オバケでそ…」
雲雀の隣に立つ倫子が、その重苦しい空気に思わず、という風に呟く。
馬鹿だね、と普段なら返す筈の口は動かないまま、巨大な化物を見上げている。
ざわめく周囲、その中でただひとり、異質なもののように音が届かない。
(ここ…、は)
見覚えがあった。
記憶なら鮮明。
この体と頭はいつも、不愉快なことまで。
『こんな場所に、』
耳障りなノイズ。
頭が痛い。
―――神の、子。
「雲雀?」
不意に呼ばれた名に、目眩がした。
離れていた意識から浮上して、ゆっくりとそちらを見る。
「な、なんか、いた?」
なにを想像したのか、倫子が蒼白になった顔でこちらを見ていた。
雲雀の顔と「ビル」とを交互に見やり、その馬鹿げた妄想を広げているらしい。
その脅えたような眼を見つめながら、思い起こすのは。
『ずっと、独りだったの』
静かに木霊する声は艶やかで、なにより偽りの塊だった。
『かわいそうね、』
憐れみなんか、誰も知らない。
偽りの言葉しか、なくて。
(ずっと、独り…)
暗闇はただ静かに手をこまねいて待ち続けていた。
―――僕を、喰らうために。
『あんたに背中向けられるのが、一番、こわい』
そう吐き出した言葉は、声は、偽りでは、なくて。
『雲雀』
虚空の名を呼ぶのは、いつだって。
「雲雀…」
その名を呼ぶのに、どれだけの痛みに耐えたのか。
『おまえ…、殺してやる』
そうして憎悪を吐き出した彼女は、どれだけ。
(滅ぼす為に、産まれた)
ノイズが、うるさい。