AEVE ENDING
「―――母様…?」
雲雀と倫子が特別なセクションに行ってしまい、留守番になったてしまっ真鶸は、母からの突然の呼び出しに病院へと来ていた。
「あの事件」以来、面会謝絶となっていた両親との久々の顔合わせとなる。
もしや、倫子に関するなにかだろうかと、とくとくと早打つ胸を押さえた。
病室に向かう途中、白く鮮やかな雲がゆっくりと過ぎてゆくのを横目に見つつ。
(大切な話…、一体なんだろう)
昔から両親によそよそしい兄を見てきたからか、真鶸は両親を愛してはいるが苦手としてもいた。
あの美しい男女を前にするとどうにも、兄とはまた違ったプレッシャーを感じてしまうのだ。
(…それに二人は、兄様に対する態度が違い過ぎて)
昔から、そうだった。
父も母も、自分の子として兄に接しない。
控え目に、当たり障りなく、逆らわず、口出しもせず。
―――「神」を、相手取るように、いつも。
それが普通だと思っていたが、やはり自分と兄に対する二人の態度はあまりにも違い過ぎた。
『雲雀は、飛び立つから』
その檻はだって、貴女が作ったものでしょう。
カツリ、カツリ。
白い回廊に響く自らの足音が、静かな館内ではやけに大きく聞こえた。
上流階級―――政府に年貢を納めることができる者だけが住むことを許される「街」の人間―――限定の病棟であるためか、収容されている患者も少ないらしい。
今や延命を望む者などひとりとておらず、この荒廃した世界でもどれだけ平穏にもたらされた生を終えるかが民の日々と化していた。
…カツリ。
病院にしては瀟洒な扉の前で立ち止まる。
「母様、真鶸です」
ノックをして応答を待つが、そこにいる筈の母から反応はない。
(…人の気配はあるのに)
テラスにでも出ているのだろうか。
訝しんだ真鶸は音を立てないよう扉を開け、病室を覗き込んだ。
視線を泳がせ、全体を見渡す。
見知った白のネグリジェの裾がテラスから垣間見えた。
(あ、やっぱりテラスに…)