AEVE ENDING
『今日からここが、君の庭だよ』
そうして連れてこられた場所は目映く輝き、今にも眼球を焼ききられそうなまでに邪悪だった。
清廉としていながら暗く澱んだ空気の中で独り過ごしていた僕は、なによりその空気に慣れないでいた。
『なんと美しい子だろうか』
幼い頃はある意味で本当にこどもらしく、他者はその隙を狙うように汚らしい手で僕に触れようとする。
『紛うことなき、神の、』
そうして僕に殺された下衆は数知れない。
爪先から腐っていくような、そんな不愉快な、違和。
雲雀はゆっくりとした歩調で「高層ビル」を闊歩していた。
時たま立ち止まり、吹き抜けになった壁から眼下の海を眺める。
時折鼻をひくつかせて、潮の匂いを嗅ぐ。
(…あぁ、懐かしい)
そんな感情がまさかこの場所に湧くとは、当時は思わなかったというのに。
鼻孔を擽るそれはなにより、幼い頃の郷愁に近い。
胸に迫るなにかはもう二度と、感じない筈だったのに。
「ううわ雲雀、見てみこれ。たかっ!」
なのに、自分の背後を歩く馬鹿のお陰で。
「うるさいな」
その馬鹿が隣に追いついたところで、その喧しい口を親指と人差し指で挟み込む。
無駄に痛がる倫子をよそに、雲雀は小さく息を吐いた。
唇を挟んだ手に触れる、温い体温の指。
まさか自分がこのような存在を見つけて、まさかこの場所で、そんな存在に、触れているなんて。
『ここで産まれたのは運命だった』
『君を創ったのは、ずうっと昔の、この腐敗した世界を憂いた、人類だよ』
『意思を、引き継がなくてはね』
いつかこの世界を、一蹴する存在を。
何者にも介入されない、至高の神を。
(―――そうして独りで、生きていかなくては)
ヒトの手で、破壊の神を。
「…雲雀?」
孤独を感じたことなんて、なかったのに。