AEVE ENDING
『知らなかったんだ』
そう、無知なヒトは神に殺されるのだ。
『―――あぁ、この娘はまるで生き写しではないか』
ヒトの罪を咎め、そうして終わりを求めた筈の、血は。
『いつか、終わらせてくれる』
··
彼女は口惜しそうに憎悪を吐き出した。
腹にいる赤子に擦り込むように、憎悪と絶望を吐き出して。
『君は、名誉ある実験体だよ。人類初の亜種として生まれ変わるんだ』
それはただのエゴでしかない。
世界に絶望した研究者達は、盲目過ぎたのだ。
自らの罪にも、「神」の悲しみと絶望にも、すべて。
(―――だからこそ、)
「歴史は繰り返した。盲目たる愚者はいつの世も罪を犯すものよ。…まあ、この悲惨な世界で現実を直視しろというのも酷ではある」
映ろう世界で、けれど。
「だからこそ、産まれてはならない罪が産まれた」
慶造は桐生を責めるような口調に変えた。
思い出すのは、あの血塗れた少女の細い息。
『―――知っているかね?』
タチバナミチコという、神の贋作がある。
あの日、桐生が見せたビジョンはあまりにもリアルであり無惨であり、だからこそ、現実味を帯びなかった。
「彼女の傷は、歴史になど必要なかった」
―――憐れな、子羊。
くつり。
桐生が嘲笑を吐いた。
「莫迦を言え」
腰掛けた身体を小さく揺らしながら、桐生はくつくつと不気味に鳴いている。
なにもない空間に響く前に途切れてしまう声は、以前よりずっと覇気がない。
「タチバナミチコがいなければ、今の修羅の葛藤もあるまいよ」
緩く伸びてゆく澱んだ空気の中で、唯一、その名が浄化するもの。
「慶造、我々が見つけた時から既に、きゃつは順調に修羅の路を辿っていただろうに」
それは遠い昔のようで、思い出す必要もない昨日のことのようでもある。