AEVE ENDING
『見てみろ、桐生』
――――寒い日だった。
重く垂れた雲はあまりにもそらぞらしく雪を溢し、身を裂くような寒さに地上の者は皆、瀕死の状態に陥っていた大凶災の年。
桐生を従え、東北へ偵察に来ていたその日、慶造は見つけたのだ。
『あの黒の群れは、…人か』
終わりを知らぬ広大な荒野は先へ先へと伸び、地平線を露にその病床に屍を抱えていた。
皮膚を暴かれぬまま朽ちた大量の屍の上に落ちる音無き白磁の粒は、儚く脆い。
『可哀想に…。集落を離れ少しでも暖かい土地に移動する途中で息絶えたか…』
『…ヒトは憐れだな。身を守る術すら、赤子を守る術すら持たぬ』
母親の腕に抱かれたまま凍死してしまった赤子の額を、桐生の指先が撫でる。
まるで生き人形のように美しい屍達は、いつか獣達の血肉となり、地中へと融けていくだろう。
―――それがこの時代のサイクルだった。
そのサイクルから唯一外れている「街」と呼ばれる都は、国の関係者、或いは手に職を持つ者のみに解放され、それも高額な税金を納めなければ居住権すら与えられない腐敗した地域。
ヒトの欲深い業が、世界を悪夢と化していた。
『そうだな、…確かに、憐れだ』
美しく朽ちただけでも救いになろうか。
自らが死んだとも気付かぬうちに凍えたような、跡。
無自覚の、死。
『―――妙だな』
しかしその死体群は美しすぎた。
慶造は年齢に相応しくない若々しい眉間に皺を寄せ、死体の群れを見渡した。
『凍死だぞ?痛みもある筈だ。なのにこの安らかな表情はなんだ。―――第一、凍えた形跡すら、ない』
見れば指先すら美しい。
多少のあかぎれと荒れは見られるが、凍死するほどのダメージは見受けられない。