AEVE ENDING
「けれどやはり、雲雀に安らぎを与えるものではなかった」
しかしそこへ現れたのが、彼女だった。
(まさかまた、あの実験が繰り返されるとは…)
記憶を伝う、血だらけの小さな身体。
ヒトの身体はあまりにも、変形しやすく、腐りやすい。
『バケモノ…』
『あんな醜く憐れなもの、初めて、見た』
それでも悔いている、動じない眼が。
「―――何故、黙っていた?」
慶造が桐生を見た。
睨みつけているわけではない。
強要するつもりもなかった。
光の届かないこの異様な箱の中で、なにを思ったのか。
(コ ロ シ テ ヤ 、 ル)
未だ疼く傷を抱え、彼女は。
「興味が、あったのよ…」
桐生が慶造の問いに答えたのは、数刻してからだった。
黙って待ち続けていた慶造は、ゆっくりと顔を上げる。
「数百年も遥か昔、人類の罪から産まれ、そして代々血を繰り返し、とうとう地上に現れた神、と」
(―――どうして、わたしだったの…?)
「過去を遡り、再び人の罪から産み出された神の贋作が、どのような歴史を生み出すのか」
都合が良かった。
政府と研究者達が一丸となって「アダム人工生成計画」を起案したその時から。
「そうしてあの小娘に、すべて奪われた」
血を吐きながら、皮膚を裂きながら、それでもただ、生きて生きて生きて、この世界で、皆が皆忘れていたことを彼女は本能のまま、やり遂げた。
『…生きてやる。お前達の望み通り、死んでな んか、やらな、い』
そう、当然のことを。
「忘れていたよ…。生きる、ということを、生きる能力を、とうの昔に、忘れていた」
ピグマリオニズムとして、生命を持たないものに情愛を抱き、冷たいそれを抱えながら、生きてきた。
「アダムに仇なした政府に復讐することばかり考えて、そうだな、いつの間にか、空っぽになっていた」
それなのに、目の前の少女はどうだ。
皮膚を剥ぎ取られ、血液を垂れ流し、瞼すらひきちぎられ、それでも、憎悪を、吐く。
(果てない)
なにをしても、終焉を受け入れない。