AEVE ENDING
「…当初、雲雀を第一実験体にすると話があったが、一番に反対したのはお前と私だったな…」
慶造が浅く息を吐いた。
昔、そうまだ遠すぎることはない過去での、小さな判断と過ちと、なにかが、狂わせた。
「そうしてもう一人、猛反対した女性がいた」
それが、雲雀の養母だった。
『それだけは賛同致しかねます!あの子だけは、承認できません!』
実の母さながら、ヒステリックに叫んだ彼女に。
「愛があったと、思うか」
慶造が躊躇うように口にする。
それは未だに、信じられない事実のひとつだった。
慶造の問い掛けに、桐生はくつりと嘲笑した。
慶造を嗤うのではなく、自嘲するような笑みを、吐いて。
「愛、か。我々にはわかるまいよ。……ただ」
桐生が視線だけで俯く。
静か過ぎる空間は、二人に時を忘れさせていた。
(―――ただ?)
「あの娘は、こう言っていた」
それは、特に暗い日だった。
彼女は床に直に横たわり、重い雲の流れを、小さな排気口から眺めながら。
『この傷は、痛みは、苦しみは、愛情から、産まれたものだ』
名も知らぬ女を研究所に差し出した彼女は、息子を守るために。
研究所に差し出された自身は、母に愛された子の為に、暴かれているのだと。
『そう考えたほうが、まだ、耐えられるよ』
そうして切れた口で苦笑した彼女は、それでも。
「憎んでいただろうよ。家族のもとから他愛ない嘘で引き離され、謂われのない苦痛と、それ以上のものを施されながら」
狙っていたのだ。
ただ先に、憎しみを抱いていた。
(…ヒバリなんて男、知らない)
それはお前の、唯一の神であるのに。
―――殺したい…。
「そうして憐れな贋作が本物と出会い、そうしてなにが産まれた?」
愛ではあるまい。
因縁でもあるまい。
執着とも、違う。
「あの二人の間にあるものを表す言葉など、私は知らぬよ」
それはなにより、切れることのない糸のように繋ぎ、けれど優しさなどは見当たらない。
魂の、連繋。