AEVE ENDING
緩やかな風に靡く銀髪が果てしなく美しい。
アナセスは、「高層ビル」の朽ち果てた最上階に立ちながら、ゆっくりと水平線を眺めていた。
海上から沸き上がる潮風は、生物の腐った臭いと化学薬品の臭いがする。
アナセスを見守るロビンは、こんな汚染された場所にアナセスを曝していたくはないと無駄に息巻いていたが、しかし、アナセスは大して気に止めた様子もなく開かない瞼をただ水平線へと向けていた。
「…アナセス、あまり潮風に当たりすぎると体に悪いわ」
ニーロがアナセスに駆け寄り、持ち込んだショールをその細い肩に掛けてやる。
アナセスはニーロに微笑みかけ、しかし、すぐさま水平線へと視線を戻してしまった。
「…嵐が、きますわ」
それはまるで予言のように。
ただでさえ強く吹いていた風が更に強く、アナセスの美しい絹糸のような銀髪を吹き上げた。
「―――嵐…?」
ロビンもアナセスに倣い、海と空の境を見る。
相変わらず黒い雲が空を覆い、確かに今にも湿気そうではあるが。
「アナセス、それはどういう…」
ニーロが怪訝げに尋ねたが、アナセスは答えず別のことを口にした。
「…シュラと合流しましょう。これは、ミッションどころではありませんね」
アナセスの真剣な表情は、しかしどこか切羽詰まったような雰囲気を醸しだしている。
その様子に、その場にいた「マリア」のメンバーは皆、ただただ嫌な予感を感じるしかない。
(それは予言であったのか、或いは啓示であったのか)
遠くから迫る暗黒の空は、やがてここをも埋めつくすだろう。
沈殿する世界にやはり墜ちていく薄闇はなにを飲み込もうというのか。
(産まれ墜ちたその日から既に枷をつけられていた)
自由に動く手足を持たない。
(遥か彼方に犯された罪の報復を抱えて)
産み出すことは赦されない。
いつも、独りだ。