AEVE ENDING








「僕は、喰いたい」

がぶり。
噛みつかれた頬が擽ったいのか、ケラケラと笑う橘を更に抱き寄せて、その体を抱え込んだ。
腕の中に簡単におさまる小さな身体は、僕の腰に両足を不埒に絡ませて、まだケラケラと笑い続けている。

潮風に揺れる痛んだ彼女の髪と僕の髪が絡まって、なんとも言えない色を造り出していた。


(不和、)


あぁ、だから。






「いっこでいいじゃん」


橘が笑う。



「ふたりで一個、ね」


いつだって橘は、無邪気に僕を殺そうとする。


(ああ、この小さな指に首を絞められて、死にたい)

神の定めはいつだって残酷で冷徹で、そして赦しなど存在しない。

温もりなど求めることも産み出すことも罪と化す時代、世界、時空。

長い間、繰り返される過去で、ただひたすらに、破滅を望んできた。


(記憶はない―――)



「初代」の記憶など、存在しなかった。



だが、いつだって風が啼くのだ。

頭の中で、耳の中で木霊する。

啼りやまない、孤独の情景。




『憎い…』


憎らしや、憎らしや。


『この体は…、もう既にヒトでは、あるまい…』


あぁ、あの人が愛してくれたこの体はもう、もう、私の体は、あぁなんて、醜い。



『あぁ…神様が、私を』


憎みは怨みは、ただその身を循環していく。

この醜い体を造った者を。
過酷な運命を強いた世界を。



憎らしや、憎らしや。




(あぁ、風が啼りやまない)

いつだって、いつだって、頭の中を、脳髄を、冷たい風が吹き抜けて、やまない。


(それは僕が産まれた、北の荒野に吹く風に酷似している)





< 975 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop