AEVE ENDING
けれど、橘はすぐ平静を取り戻し僕の言葉を待つ。
いつからこんなお利口になったのかな。
「…彼は、僕は覚えていないと思ってるけどね。拾われてすぐ、この場所に連れてこられた。とはいっても、過ごした期間は短かったけど」
他のアダム達が勤勉に作業に取り掛かっているらしい。
破壊音が耳につくが、さすがに僕の気配があるこのエリアには近寄りもしない。
「さる人物の紹介で、今の両親のもとへ養子として迎えられた」
その言葉に橘が目を見開く。
あのふたりが実親でないとすれば。
「…真鶸は、」
気遣いげに窺う声色に笑ってしまう。
未だしこりを残しているわけではない。
浅はかな遠慮など必要なかった。
「僕が養子になった後にできた、彼ら待望の長子だよ。ただ、血が違(たが)うことを真鶸は知らない」
不妊に悩んでいた妻と、後継者が欲しいがためにそれに苛立ちを感じていた夫。
そこへ現れた神の具現―――雲雀という、美しい少年。
『…美しいな』
男は言った。
静かに、ただ静かに、高みから僕を見下しながら。
『だが私には、似ていないね』
最初から僕を否定していた男と、盲目的なまでに僕に尽くすことで「母親」になろうとした女。
はじめから、狂っていたのだ。
真鶸の誕生で、多少歪みは緩和されたとはいえ、根本的に噛み合わない螺子がいつか噛み合うなど有り得ない。
―――内側から狂い始める輪の中で、不和を噛み締めながら。
風はそう、いつからか、吹き荒れて、僕の視界を霞ませていた。
橘が立ち上がる。
僕の手から離れた体は僕の前に立ち、その体で水平線を分断した。
唇を噛み締めて、何事かを考えて、唇を開いて、けれどまた閉じる。
「―――言いなよ」
必要ないよ、僕を傷付けたくないと、君は優しいから考えているのだろうけど。
(君の傷に比べれば、こんなもの)
促せば、意を決したようにその傷だらけの拳を握った。
発光する雲に照らされた髪が、痛ましい。
橘が、視線を絡めてくる。
静かに。
―――本当に問いたいのは、僕じゃないだろうに。
「…私を雲雀の代わりに差し出したあのひとは」
おまえを、あいしていた?