AEVE ENDING
(バケモノは、非道でなくてはならないものよ)
静かな空気は、ただ身を裂くほどの冷たさを纏い、ロビン達の自由を奪う。
『神に牙を剥け、罪人よ』
『大丈夫だ、君には素質がある』
―――ほぉら。
「何度も何度も、教えただろう…?」
まるで暗示でも掛けられているかのように、倫子の肩は小刻みに震えていた。
「己に牙を剥く者はすべて、血祭りにあげろ、と」
君に仇なす、すべて。
『殺してごらん』
甘い声は、罪を囁く悪魔のものか、或いは残虐な神のものか。
『―――ねぇ、ちゃ、…』
神は罪を、見ていた。
「――――――っ!」
鼓膜を破るほどの悲鳴が鳴り響いた。
ロビンの腕を伝う震えは確かに倫子のものだが、叫んだのは彼女ではない。
「アナセス…!」
ニーロの悲鳴染みた声が、ロビンを衝動的に倫子から離れさせた。
崩れるように蹲ったアナセスは、小さな悲鳴を上げながら痛みに堪えるように頭を抱えている。
白銀の髪が音もなく激しく揺れる様は、異様だ。
「アナセス!」
ニーロを押し退け、アナセスの肩を掴む。
長い髪に隠された表情は露にならないまま、けれど。
「…だめ、だめ、だめです、橘、あなたは、あなたは……橘、だめ、…!」
魘されているように、アナセスはただそれだけを繰り返していた。
苦痛に耐えるように、その開かぬ瞼からしとどに涙を流す。
「ビジョンを見ているんだわ。アナセス、目を醒まして…」
感知能力の高いアナセスは、こうしてごく稀に発作的にビジョンを見る。
それはあまりに強力な思念によるものを、敏感なアナセスが拾い上げてしまうからだ。
ビジョン―――半強制的に、網膜に映し出されるリアルな映像、妄想、過去、記憶。
(橘…?)
では今、アナセスは倫子のビジョンを見ているのか。
「こんな取り乱し方、初めてだわ。一体どんなビジョンを…」
ニーロが訝しげな表情を浮かべ、アナセスを抱き締める。
未だ苦しむアナセスは、譫言のように「橘」、と繰り返していた。