AEVE ENDING
『橘…、愛らしいその少女を、君のようなバケモノにはできないだろう』
ひくりと嗚咽を続ける倫子の膝が、ゆっくりと少女のもとに折られる。
身体がうちから爆発してしまいそうなほど膨らんだ身体は、あまりにも、あまりにも。
『―――……』
もう一度、名を呼んだ。
妹の、大切で大好きな妹の、名を。
それを、彼女を、妹を、涙が止まらない瞳で見つめていた倫子が、やがて動いた。
コードに繋がれた震える手が、もがき苦しむ少女の首に添えられる。
もう既に、ヒトの姿をしていない「躯」を、慈しむように。
―――ブチンッ。
ビジョンが、切断された。
あまりにも凄惨なそれに、アナセスの意識は既にない。
「…ロビン?」
ニーロとジニーが、不可解だと言わんばかりにこちらを覗き込んでいた。
(……ビジョンを見ていたのは、アナセス、俺、雲雀の、三人か?)
立ち眩みを覚えながら、現実の風に意識を傾ける。
吐き気がする。
噎せるかえるような血臭が、体中に集約していた。
(なんで急に、ビジョンが)
思念が消えたわけではない。
あれは明らかに、何者かによって切断された。
「橘…?」
アナセスを抱えながら、視線を巡らせる。
先程のビジョンの最期―――妹の首に掛けられた指は、なにをした?
「…、」
振り向けば、立ち尽くす倫子を庇うように立つ雲雀が見えた。
見たこともない悲痛な面持ちで、桐生の白濁から、彼女を守るように。
(ビジョンを切断したのは、雲雀か…)
それだけは明白だった。
これ以上、彼女の罪を曝さんがために。
『…こわい、おね、ちゃ』
耳にこびりついた朱を、誰か拭ってくれ。
風が鳴る音だけが、皆の耳を煩わす。
(世界よまだ暫し、その懐に罪人を抱け)