AEVE ENDING
「…殺した」
ぽつり。
耳にはっきりと届く、思いの外、強いそれは。
「…殺したの」
雲雀の手が、震える頬に伸びる。
慰めるつもりも、労るつもりもなかった。
そんなことできやしないと、知っていた。
雲雀に触れられた頬が、ひくり、痙攣した。
あぁ、なんて。
神よ、あなたは残酷だ。
「あの子を、殺した」
こんなにも傷付いて傷付いて傷付いて、なにより苦しみを引きずっているのに、神よ、貴方はまだ、この細い肩に罪を背負わせる気か。
(抱くことすら罪になるなら、わたしはそれを喜んで受けましょう)
「あの後、君の錯乱ぶりは研究にまで支障を来すほどだった…」
桐生がゆるり、昔を懐かしむように洩らす。
『―――きたないきたないきたないかたないきたないきたないきたないきたなきたないきたないきたないきたないきたなきたないきたないきたないきたないきたなきたないきたないきたないきたないきたなきたないきたないきたないきたないきたなきたないきたないきたないきたないきたなきたないきたないきたないきたないきたなきたないきたないきたないきたないきたなきたない………』
「気が狂ったように繰り返し繰り返し吐き出すように言い続け、誰の手も受けようとしなかった」
ゆらり、控えていた双子が立ち上がる。
瓦礫に埋もれるように立つ倫子は、今はただ儚い。
(…どうして、)
触れた頬はいつになく人形のように冷たいまま。
赤くなった鼻だけが、かろうじてヒトに見せていた。
爛々と輝く筈の眼は、今や愚鈍の灰が積もり、開かない、前を見ることができない。
(どうして、橘ばかり、が…)
濯いでも濯いでも墜ちてくる彼女の過去と罪―――少なくとも倫子はそう思っている―――と、傷。
『何故、生きている?』
その通りだ。
こんなにも傷付いて傷付いて傷付いて、何故。