AEVE ENDING
「研究員達は君の記憶抹消を行った。君が最も忌々しく思う、『妹』の記憶をね」
ぴくり。
倫子の指先が震える。
「あの男の独断と偏見の諸行とはいえ―――いくら私でも、君を大層憐れに思ったよ…」
傷付いても傷付いても、まだ、足りない。
この先に果たして安寧が待っているのか。
―――否、終わりがあるのか。
「苦しかったろう、辛かったろう…君はいつも、泣くことすら、耐えていたから、ね」
ただ、ただひたすらに、憎しみを忘れないが為に。
涙と同じに、流してしまわぬように。
「憎んでいただろう…、君は」
そう、憎んでいた。
(みんな、きえればいいのに)
うやむやに霞む罪と意識に苛まれながら、いつも。
(コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル)
すべてを、消し去る為に。
「今や君は自らの罪に浸かり、誰よりも、そう、唯一の雲雀よりも、かの存在に近くなった」
力を、解放すればいい。
滅びを唱えれば、世界は君の手のうちに崩れさる。
望めばいい。
暗闇の支配を、再生不可能な、絶命を。
「君は紛い物の、修羅」
さあはやく、目醒めてごらん。
本当ならずっと憎んでいたかった。
ただ憎しみに溺れ、それを糧に生きていたかった。
それなのに。
『…橘』
声がする。
私が最も憎んだ男の、存在の、声が。
『橘、ほら』
はやく、おいで。
私を至福に導く、声がする。