AEVE ENDING
「たちば、な…」
朝比奈の霞むような声がその名を呼んだ。
雄々しいまでに凛と立つ彼女は、ただ静かに、雲雀を見据えている。
風が鳴る。
耳に痛い。
今にも崩れ去ってしまうような瓦礫の上で―――まるで、今のこの世界の上に君臨するように、彼女は。
「…この圧力、ナに、?」
倫子の体から滲み出る圧倒的な圧迫感に圧され、ジミーが縋りつくようにニーロへと手を伸ばす。
気を抜けば、ズルズルと引き摺り込まれてしまうような、引力。
それなのに、指先ひとつでも動かせば地の果てへと跳ね返されてしまうような、拒絶する気配。
目の前で巨大な風船が今にも割れんとしている。
既にぱんぱんに膨らんだ「膜」は薄く薄く伸びているというのに、まだ、膨らみ続けているような―――。
(…こわい)
それは静かに、けれど確かに膨らみ、巨大になっていく。
「爆発、するわ…」
ニーロが夢現に口を開いた。
脂汗を浮かべるその表情は強ばり、さも恐ろしいものを見るように倫子を見ている。
そう今にも、はち切れんばかりに膨張する、神の力が。
「バケモノ…」
その巨大な力は、まさしく。
「バカ言うな。あいつ、イヴだぜ…?」
武藤が朝比奈を庇いながら、倫子を睨みつけていた。
そう確かに、彼女は「イヴ」だったのだ。
(盲目な神よ、どうか)
「イヴ、か…。君達は知っているかね?人類の誕生を、最初の起源を、神話を」
桐生が密やかな笑みを浮かべながら口を開いた。
恐らくは倫子のアダムとしての能力を暴走させている張本人――。
彼女の精神を乱し、自身の能力と同調させている。
倫子は今、意思を持つ完全な人形と化していた。
悲しみに溺れて、浮き上がれないでいる、憐れな魚のように。
「楽園にアダムとイヴが生きていた頃、罪を犯したのはどちらだったか…」
白濁が倫子を愛しそうに見つめていた。
それは歪んだ、ただの祈りでしかない。
「イヴがいなければ、我々人類は永久に林檎を口にできなかったのよ。罪深い林檎は、さぞ甘かったろう…」
そう、彼女はとうに、喰らいついていたのだ。
(それは、罪の味がする)