手紙
 大抵の物語はここで終わります。その後の彼らのことなんて、誰しもが幸せなんだろうな、なんていう幼稚な想像をするだけ。恋敵のことなど、誰も考えていない。
 なぜ恋敵は、ヒロインだけならともかく、想い人にまで嫌われるという辛い人生を送らなければならないのでしょう。
 確かに、人を呪わば穴二つ、という言葉もあるように、相手に嫌な思いをさせることは感心できません。だからと言って、恋敵の全てを否定する権利などあるのでしょうか。ヒロインは本気で、こんな結末をハッピーエンドだと言えるのでしょうか。だとしたらとんだお笑いモノです。
 自分の幸せ以外考えていない。そんなの、卑怯な手を使ったか使わなかったかの違いで、恋敵と同じではないですか。
 では、ヒロインも恋敵も悪い人間なのでしょうか。正直、私にはわかりません。人間などというものは、普段いい人であるのにふとした瞬間に悪い人になってしまうのですから。もし区別がはっきりあるのなら、騙されることなんてないはずでしょう、絶対に。
たまたま恋敵の悪い部分が出てしまっただけであり、それは誰しもが持っているものであると思うのです。もちろん、ヒロインも。
 例えば自分がいじめられていると考えてみてください。大抵の人は、それに毅然と立ち向かったり、仲間が助けてくれる、などという都合のいい幻想を抱くのではないでしょうか。自分だけは、悪と戦える。自分だけは、悪に勝利する。自分だけは、自分だけは、自分だけは。
 できない人ほど、そんなことを考えるものです。
 あなたは正にその典型でした。
 常に正しいことを言って、熱い気持ちで人とぶつかろうとする。自分のことを正義の味方とでも思っていたのでしょうか。傍から見たら、滑稽でしかありません。
 あなたがふりまく正義なんて、ネックレスなんかと同じです。ただのアクセサリーに過ぎません。着飾るための装飾品、自分に価値があると思わせるモノ。
 あなたの正義は、常に「あなた」中心だったのがいい証拠です。万人に通用する正義などでは決してない。あなたによる、あなただけの、あなたのための正義。違いますか?
 そしてその火の粉は、とうとう私のところにまでやってきました。直接的に、というわけではありません。彼女を通してです。
 彼女のこと、もちろん忘れてなどいませんよね?

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