銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
第一部 異変。
一人の少女が、静まり返った昇降口……の靴箱の前で体育館シューズを履いた。

焦っているのか?

彼女が結べば結ぶ程、紐はどんどんこんがらがっていく。

現在は八時四十分。

此の世臨中学校では今日は八時四十五分から全校朝礼なのだ。

彼女はよりによって全校朝礼の今日、寝坊してしまったのだ。

「あぁぁぁ!

遅刻するーっ!」



「美紗!おはよう!」

白江 美紗(しらえ みさ)

彼女の名前だ。

此の中学校の二年生だ。

黒い髪を肩まで伸ばしていて、制服は綺麗にアイロン掛けされている。

幼い顔、背丈をしているが、天涯孤独の彼女は意外としっかり者だ。

両親は物心ついた時にはいなかった。

親戚から送られてくる仕送りで、両親が残してくれた一軒家で暮らしている。

「真帆ーっ!」

美紗に声をかけたのは真田 真帆(さなだ まほ)

髪を茶色に染めた、少しギャルっぽい美紗のクラスメートで親友。

制服は美紗とは真逆で皺だらけ。

姉御肌で大人っぽく、身長は美紗より20㎝は高い170㎝くらいありそうだ。

メイクにも力を入れているみたいで、パっと見では高校生に見える。

美紗と真帆は良く気が合う。

入学当初、初対面なのに、二人はいきなり意気投合して、他の生徒から同じ小学校だと勘違いされた程。

美紗はもう真帆が居れば大丈夫だと、靴紐を結ぶ手を落ち着かせた。

何とか結べた後は、のんびりと体育館へ二人並んで歩く。

「そうそう美紗! あたし、面白いサイト見つけたの!」

今の真帆の一言が、美紗の人生を揺るがす物になる。

だが其れはもう少し先に解る事。

「なになに!? どんなサイト!?」

美紗は何も楽しい事がなく、
只押し流されていくだけの日常に飽き飽きしていた。

“きっかけ”それが欲しかった。

「まだお楽しみ。

ね放課後すぐウチ来ない?」

「うん行く行く!」

朝のこの会話から数時間たって今日の授業は全て終った。

美紗は真帆と共に真帆の家に向かう。
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