銀鏡神話‐翡翠の羽根‐

Wit1 存在価値。


人の存在価値は、自分にしか決められない。

兄様の口癖だった。

私が任務の失敗で落ち込む度に、
牢の中から兄様はそう言い励ましてくださいました。

兄様、私もそう思います。

自分が何故存在するか、存在する価値があるか等、
当の本人にしか決められないでしょう。

そんな敬愛する兄様、あなたを救う為ならば、
私は悪魔にでも魂を売れるんですよ。

そしてもう一人の兄様を殺す事も出来るんですよ。






「珀月、出番だよ。」

ハクゲツ。

私に与えられた名。

兄様が下さった名なのです。

「さぁ、シャイ・ニン。
珀月と共に、白江 美紗を捉えてね。」

話し声に微笑を混じらせる兄様。

横で苛立ちを隠せずに、足で地面を蹴るシャイ・ニン。

此処は兄様の寝室。

兄様の従者達からは望郷と呼ばれている。

太古の昔に、この場で魔王と神、支配者が、人々の愚かな戦乱を鎮め、
聖なる郷を望んだ。

それから此処は望郷と呼ばれるようになった。

流石は兄様だ。

こんな民達の理想郷に住まいがあるなんて……

「待ってくれ。

白江 美紗を捉えたら、本当に俺は支配下に入れるんだろうな?」

何て恐れ多いのか、兄様に向かってシャイ・ニンは人差し指を突きつける。

今すぐにでもその薄汚い手をもぎ取ってやりたい。

だが耐えよう。

所詮は今まで大罪を犯し、地下牢で歳月を越してきた狂者だ。

常識が無くてもしょうがない。

「えぇ、あなたにはそれなりの地位をお約束します。」

ふんっと、シャイ・ニンは鼻を鳴らすと、
長ったらしい紫電の髪を一回かき分け、
部屋の扉を堅いブーツを履いた足で蹴る。

汚らわしい。

何もかもが。

「珀月、期待しているよ。」

琥珀色のカーテンの後ろから、弱々しい兄様の声が聞こえた。

「御心の侭に。」

一度礼をすると、私は部屋から出て行った。
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