銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
鉄鋼の鎧に身を包んでいた珀月は、
自室に戻ると身に付けていた錘を取り、机の上に大事そうに置く。

顔に付けていた、赤い狐の仮面を取ると、其処から覗かせたのは誰もが一目で憧れる様な端正な顔立ち。

蒼い瞳に長い睫。

其の口元からは甘い誘惑。

ミルクの様な肌は触ったらあっという間に崩れそうな程儚く。

だが誰がどうみても、彼……いや、彼女は女だった。

支配下・No.13 珀月。

新人の支配下の珀月は、大柄な男騎士という話だった筈。

何故だろう?

「ふぅん、見ちゃったよ。」

上から気配を感じ取った珀月は、腰にかかっていた鎌架(れんか)を抜き取る。

そして呪文を詠唱する。

『我が名は珀月。

鏡の使。

この名を使い銘ずる。

謳い説いて、汝を解く。

貴公は哉霧(かなきり)

魔の従者。』

鎌架・哉霧は上の気配に向かって舞い散った。

「鎌架。

死神の持つ特有の死器。

キャルナスのとは大分タイプが違うねぇ。」

上の何者かは余裕な喋り方をする。

「黙れ!

無駄口を叩いている暇が有ったら交わしてみよ。」

哉霧が声に向かって霧になって降り注ぐ。

「最も、キャルナスに較べたら、対したこと無いけどね。」

声は笑った。

次には珀月の首を声の主は捉えていた。

「なっ……」

「女の子がこんな物騒な物を振り回してちゃあ駄目だよ。」

クスッと声の主――――独楽 裡音は笑った。
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