銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「わ、私は女なんかじゃない!

私は珀月。

死界騎士・珀月だ!」

ミルク色の頬を赤く染めると、珀月は独楽に哉霧を振るう。

独楽はひょいひょいっと、意図もたやすく其れを交わす。

「嘘仰いな。

こんな可愛らしい男が何処にい……」

一瞬の独楽の困惑。

脳内によぎるのは白露 鎖葉斗。

「隙をつくるなど、愚かな。

殺せ 哉霧!」

哉霧は鈍い金属音を立てながら、独楽の腹を抉る。

紅い三日月の様な形の刀だった哉霧は、姿を変えて大鋏の様になる。

珀月は一回独楽から身を引き、態勢を整えると、大鋏で独楽の右肩を挟み込む。

「!!」

「さぁ死ね!!」

独楽は思った。

此処まで楽しそうに殺し合いをするのは、コイツが初めてだと。

幾ら何でも、白露でさえ、こんな笑いながら戦わない。

珀月は成長途中の白露みたいな物だ。

「くっ……」

仕方無しに独楽は身を引く。

走ると最後大鋏で斬られた右肩が、空を伐るごとに染み出す。

「さぁ終わりだ。」
大量の出血に身が持たずに、独楽は倒れる。

石畳の床は冷たく、また傷口が染み込んだ。

そして哉霧は大鋏から深紅の大刀へと姿を変え、問答無用で独楽に襲い掛かる。

「ははっ!

リオリオは殺させないよーっだ!」

嫌な気配。

幼い声に混ざる殺気。

一瞬、本当に微々たる声でもわかる。

声の主がどんな人物かが。

その結果解った事ーーーーコイツは戦闘のエキスパートだ。

「やぁっほう珀月ちゃん!

あたしはね、黒無化まこ!」

黒無化は自分の躯の大半もあるクラリネットを吹く。

それは不思議な音色。

戦闘中なのに、ついつい聞き入ってしまう。

夢見心地にする音色。

そう、我に帰った頃にはもう自分の術は無くなっている。

珀月とて同じだった。

「!!」

我に帰った時、哉霧はもう消滅していた。

音色に夢中になっている間に、魔法を解法する。

魔法で出来ていた鎌架・哉霧は消滅した。

「降伏しな。

あんたに術は無い。

まぁ抵抗して更に恥を上塗りしたいんだったら相手になるよ。」

まこが勝利の笑みをした。
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