銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「おりょりょ?

珀月ちゃんは珀月ちゃんで、称号が珀月で?

爾来様は珀月ちゃんが此処に来ている事を知らない?」

まこは混乱した様子で頭を抱える。

独楽もこればっかりは解らないようで、口出しせずに黙っている。

「珀月は、もう一人の兄様が私の為に作って下さった称号なのだ。

この名も兄様がくださった。」

もう一人の兄だと?

独楽とまこは眼を合わせ、合図を送る。


―――新しいNo.と称号を追加できる程の権力を持った者がいる?

しかも其れが今日初めて耳にする、爾来の兄弟……?―――


「……あんたの兄様は誰なんだ……?」

珀月は誇らしげに兄の話をしていたが、独楽の問いに顔を曇らせる。

「……其れは言えない。

兄様から口止めされている。」

「だがこれは……」

異議を申し立てようとする独楽を、まこは手で制した。

独楽はまこの眼を見た。

その眼は“焦るな”と、言わんばかりに厳しく独楽を見る。

彼女の考えは今一掴めないが、彼は先輩の指示に素直に従った。

「すまない……

あなた達は兄様に仕える者。

知る権利は有るんだ。

しかし、私の口からは言えない。

もし言えたとしても、その日はまだ訪れていないんだ。」

珀月の言葉に隠されている、深い深い謎。

まだ彼女達は其処に辿り着かない。

けれど、一日一日、其処に……真実に近づいていっている。

少なくとも、支配者の彼女は。






「ふぇ、ふぇっくちょむ。」

だらしなく嚔をする少女が居た。

彼女はバス停のベンチで一人、誰かを待っている様だった。

寒そうに手と手を擦り併せて、白い息を吐く。

人間界。

此処はもう冬という、白銀の雪が舞い散る時期だった。

「……」

そんな十代前半くらいの童顔の少女を見る視線が一つ。

其の視線は、想い人を見る熱い視線でも、

声をかけたいがチャンスが見つからずオタオタしている人の視線でも無い。

ましてや影から見つめる観察者でも無い。

では? 残りは一つしか無い。
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