銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「にしてもさ、鎖葉斗君がいなくなってからもう一ヶ月経ったんだね。」

美紗は最後に『帰ってこないかな』と、言おうとしたが、呑み込んだ。

言っても帰ってこないのはよく知ってる。

一ヶ月前。

曼陀羅駄菓子店という、キャルナスの知人が経営している駄菓子屋で、
美紗達は試練を受けた。

其れは記憶の世界という、架空の空間で、与えられた試練をクリアするという、至って簡単な試練だった。

なのに、白露 鎖葉斗。

彼一人だけ、帰ってこなかった。

一ヶ月経った今もまだ、帰ってこないのだ。

其れから、美紗達は白露という戦力を失い悩んだ。

だが、一度溢れ出した支配力の代償は止まらない。

美紗は一日なにもしないだけで、また死に一段と近づく……、そんな普通では考えられない状態なのだ。

白露がいなくてもどうにかしなければ……

美紗達は三組に別れて行動する事になった。

間口 吾平と、綾瀬 めちる。

真田 真帆こと霧草 忍と、七瀬 香。

そして白江 美紗と、キャルナス・シャルドネ。

彼等はそれぞれの地に有る、残りの鍵を探しに行く。

美紗とキャルナスは、此の国の最北端の地にやってきていた。

神授の森――――

此の辺りに住む人は、此処をそう呼ぶ。

キャルナスに拠ると、此処に紅の鍵が有るそうだ。

「でもさっきの子、村から出てけって言ってたけど、村何て在るのかな?」

美紗は腕を組んで考えるフリをする。

「さぁ、行けば解りますよ。」

笑いながらあっさり流されてしまった美紗。

此のキャルナスという男と、行動を共にするようになってからもう数十日。

なのに未だに美紗は此の男が解らない。

過去は謎だらけ。

つい最近見つけた項の傷。

時たまに見せる、哀しい顔。

仲間として知りたい。

だけど聞くチャンスが無いからなぁ。

そう思っているうちに、一日が終わるのだ。
< 118 / 197 >

この作品をシェア

pagetop