銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「ヴェルディ……」

哀れむ眼差しで珀月はルネサンスを見た。

「……はははは!

またまた御名答です。

我が名はヴェルディ・リアランズ。

そして……」

またルネサンスは静かに、シルクハットで顔を覆うと、次は手慣れた手つきでシルクハットを魔術の如くに消し去る。

「!? 何でよ!

何で貴方が!?」

ルネサンスの顔を見て、美紗は言葉を失った。

其れは数年ぶりの再会。

二度と逢えないと思っていたから。

「お父さんっ!!」

白江 兼允。

数年前、会社での海外出張先でテロに巻き込まれて行方不明になった。

爆発により見る影を失った大使館。

瓦礫となった破片の数々の中から沢山の遺体が見つかるものの、兼允の遺体は出て来なかった。

其れから今日まで。

彼は法律により死を迎える。

父は生きている、彼の死を断固して認めない母は、大病に侵されながらも、最後まで父を待ったのだ。

彼女の願いも虚しく、父は帰ってくる事は無かったが……

今、何故こんな所に父が?

「父さんっ……!」

「美紗! 違う!

彼は貴女の父君では無い!」

父の元へと駆け出さんとする美紗を、キャルナスは必死に抑えつける。

「何で……キャルナス、父さんなのよ……」

「貴女の父君は亡くなられたんだ……

ルネサンスは甦生……再生させた貴女の父君を中に喰らった悪魔なんだ!」

嘘だ。

父さんが、悪魔に喰われた?

冗談じゃない。

やめてよ、やめてよやめてよやめてよ!!

「父さんは死んでなんか……いないっ!

キャルナスに何が解るの!?

知らないじゃない!?

父さんがどれだけ逞しい人だったかも、
あの日あたしと母さん何て言い残して出ていったかも、何も……何も知らないじゃない!?」

最低だ。

頭では解ってる筈。

キャルナスの言ってる事は本当で……

父さんはもう死んでしまったって。

解ってるのに……心の奥底で、真実を拒絶しているあたしがいるんだ。

最低だね。

ごめんね……ごめんねキャルナス。
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