銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「キャルナス、信じたくないよ……

父さんがあんな悪魔に喰われたなんてさ……」

躰に力が入らなくなり、美紗はキャルナスにもたれ掛かった。

「ゆっくりでいいんですよ。

真実を受け止めていきましょう。」

泣きじゃくる想い人を、キャルナスはしっかりと抱きかかえた。

「……いちゃいちゃするのも良いんだが、援護を頼む。」

「なっ!」

珀月は鎌架・哉霧を解放する。

蒼白く光、弓と矢。

颯爽と彼女は其れをルネサンスに討ちはなった。

ルネサンスに近くなればなる程、矢の速さは増し、より美しく成ってゆく。

「哉霧の始期・龍神。」

此の技の術名だ。

龍神……術名の通り、矢は龍の姿へと朧気ながら移り変わっている。

「貴方は白江 兼允。

……こう言っては難ですが……支配者の世界では無力な人間に過ぎない。」

美紗を近くに有った、焼け残っていた大木に寝かせると、キャルナスは右手をルネサンスに向け、詠唱した。


バチッ


感電。

ルネサンスの両腕が電気を帯びている。

麻痺したのか、ピクピク震えている。

「腕を封じさせていただきました。

此で貴方はもう姿を変えられない。」

彼は姿を変えるときはシルクハットを必ず使う。

だったら使えなくすればいい、腕を封じて。

「……お見事だ。

だが、大変、愚かだ。」

ルネサンスの脚から暗闇色の光が放たれる。

光は次第にキューブ型になると、ルネサンスは勢い良く蹴り上げる。

キューブは湖を、焼け野原となった森を、次から次へと吸い上げてゆく。

「そんな!?

何故、普通の人間が魔術を……!」

狼狽える珀月を横目に、美紗は気付いた。

あれは魔術なんかではない……

支配力を根源としている……支配術だ。

「気付いた様だな支配者。

人間が用いるのは武力。

なのにお前何かが撰ばれし支配力を持つか?

簡単な事だ。

お前は撰ばれてなんかいない。

撰ばれたのはお前の父だ。

其れをお前が受け継いだだけの事だ。」
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