銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「締め上げろ。」

赦雨薇唖の鎖がしなやかに廻りながら、ルネサンスの首筋へと絡みついた。

『……狂え、古の遣い達。

……蒼き王者に恵の泉水。

……秘め事を謳えし道化。

……美月の夜に断罪され。

……道化の首を抱く聖者。

……天地に結ばれし愛を。

聖騎士・イノセンスの名に告ぐ……』

長い詠唱を必要とし、聖の名を借りる此は……

「皇位魔法────」

鎖葉斗は赦雨薇唖を地に突き刺すと、解放呪文を唱える。

『汝、白昼夢の中で眠り込み真の力……

目覚めよ、赦の力……』

赦雨薇唖の鎌の刃が楯の形になり、鎖葉斗の前に降り立つ。

藍色の光で魅せながら、刃は汚れた森の姿を映し出した。

『束縛せよ、ヒューマノイド・リライト』

地から現れたのは心臓が有るであろう左胸を、無残にも大剣で刺された、ミイラ。

本来左目が有ろう所が窪んでいる事から、左目は無いのだろう。

げっそりとした口から毒々しい唾液を流している。

全身に捲かれている包帯は血にまみれていた。

「えげつないなぁ……

何処の死体さん?」

口ではこう言っているが、彼等にとってこれ位の死体は日常茶飯事……

幾らだって目にする物なのだろう。

「天界の聖天使だったそうだ。

だが、魔界の聖家……王家エルヴァータの騎士・イノセンスと恋仲になってしまった。

イノセンスを溺愛していた当時のエルヴァータの女当主は、嫉妬のあまり……」

一度間をあけると、此処からがお樂しみと言わんばかりにルネサンスは目で合図した。

「聖天使・リライトの心臓を貫き、其の心臓を掴み、引きちぎった。

死んだ後も恨み辛みを込め、何度も剣でリライトの顔や腹突き刺す。

最終的にはリライトをミイラ化させて放置するに至ったが……残念ながらイノセンスは見つけてしまった。

見る影も無くなったリライトを。

怒りの矛先は当たり前だが女当主へ。

女当主の首を絞め上げ殺したイノセンス。

そしてイノセンスは一言言った。

“空っぽになってしまった”と。」
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