銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
ブチ
彼の堪忍袋の緒が切れる音がした。
此処まで言われたらキャルナスは引けない。
顔を笑ってるが、同じく青筋を立てながら、
優しく穏やかだが皮肉をたっぷり込め言い返す。
「貴女に言われたくないですねー。
男みたいに振舞っちゃって。
青春してませんよねぇ絶対。」
キャルナスが大人気無いのは一目瞭然。
二十三歳の男が、十四にも満たない少女を相手に、
こんなくだらない事について、口論しているのだから。
「ふ……ふんっ
私だって何時かは、兄様の様な、素敵な殿方を見つけるからい……」
そう言い掛けた珀月の脳裏には、一人の男の笑顔が過ぎった。
「んー……」
タイミング良く、美紗が起きたところで、二人の争いは一時休戦となった。
「美紗、おお……おはようございます!」
力みながらキャルナスは美紗に言う。
珀月は上がってしまっている彼を呆れながら見た。
実は此の男、情けない事に美紗が好きになってから、
まともに美紗の顔を直視して話せなくなってしまった。
日常会話のおはよう、お休みすら何だか照れくさくなって言えない始末だ。
「おはようキャルナスって、顔……真っ赤。
大丈夫? もしかしてさっきの皇位魔法のせい!?
ど、どうしよう……」
「ちっ、違いますから!
本当に、気になさらないで下さい!!
私、お手洗いに行って来ますっ」
戸惑う美紗を他所に、キャルナスは勝手に話を済ませると、
森へと逆走して行ってしまった。
「? 間口といい真帆といいキャルナスといい……はっ……もしかして……」
珀月があーあーとキャルナスの向かっていった方へご愁傷様と心の中で呟いた。
「第一次お手洗いブーム?」
「……」
間抜け顔で自分を見る珀月に気づいた。
それもそうだ、白江 美紗がここまでこういう話に疎いと知らなかったからだ。
間口との交際経験も有るのだから、逆に強い方かと思っていたが……
「珀月さん? どうしたの?」
「あ……いえ何でも無いです!」