銀鏡神話‐翡翠の羽根‐






アリアードは何もない荒れ地と化していた。

干からびた湖、森の木々は根絶やしになり。

そんな中、一人の男が瀕死の状態で倒れている。

「糞が……鎖の破片……次こそは、貴公の命、必ずや……」






「此処は……もう森から出たのか。」

鎖葉斗は周りの景色を見渡した。

白銀の廊下にバス停が一つ、ベンチが一つ。

寂しいこの場には勿体無い、言葉では伝えられない空の朝顔が満遍なく上に広がっていた。

森から沢山の黒い粒が後を絶たずに飛んでくる。

住んでいた場所を奪われた鳥達。

鳥が鳴く度に鎖葉斗の心は軋んでゆく。

赦されない気持ちになって。


壊れてしまった。

何かが。

(どうしてこんなに涙もろくなったんだろう。)

昔、酷い絶望感を抱いた。

知ってしまったから。

でもおかしいのは自分だった。

可能性を否定して、諦めてた。

違った……

有ったんだ。

まだ、誰かの為に泣いたり、笑ったり、怒ったり。

「うわぁぁあああ……」

痛む右脚が、自らの功績を物語っていた。

《……鎖の破片、泣きたいだけ泣いとけ、だが絶対、お前の好きな女の前では泣くんじゃねぇぞぉぉおお》

赦雨薇唖はそれだけ言い残すと消え去った。

「……白江様を、護らなきゃ。

其れが僕にかせられた、使命……」

壊れた脚を引きずりながら、真白の世界を突き進む。

寒さなんて感じない。

痛くて痛くて、其れ以外に神経がまわらなくて。

血が凍ってる。

青紫色になった肌。

「まだ、壊れちゃ駄目だ……」


バタッ


意識が途絶える。

死んじゃ駄目だ。

白江様は、僕が消えたら泣くから。

僕みたいな、存在する価値の無い人間の為に泣いてくれる人は初めてだから……






温かい……

何処だろう此処は?

人工的な温もり。

煉瓦の暖炉がバチバチと火を散らす。

赤いふわふわの絨毯に、硝子の机の上に洋風な緑色のランプが置いてある。

「起きたか?」
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