銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「……何のマネ?」

ソファーの上に腰掛け、暢気に読書をしている男を睨み付けた。

「独楽 裡音。」

長い銀髪の男は、サングラスを外すと、白に近い灰色の目で僕を見下した。

黒い革のコートを着て、物好きな事に手袋も黒、ブーツも黒と、ご丁寧に全身黒で揃えている。

「何?」

「おいおい、瀕死の状態で倒れていたのを助けてやったのに、何だその態度は?」

何が目的で僕を助けたのかは解らないが、全身に不器用に捲かれた包帯、頬にがさつに貼られた絆創膏。

命のやり取りをしたい訳では無さそうだ。

「別に、お前を殺しに来たんじゃない。

偶々ね、見つけただけさ。」

……嘘付けって言ってやりたかったが、今は此の男に構っている暇は無いんだ。

行かなきゃ、白江様の元へ……

「痛っ……」

躰が言う事を聞かない。

引き裂かれそうな痛みが迸る。

「もう少し休んでな。

ま、出て行こうにも行けねーよな。

身包み剥がして、お前の大切な鎌架は取り上げた。」

!! 確かに何時も手の中に有る筈の赦雨薇唖が無い。

「まさかお前の手にそんな仕掛けが有ったとはな。

異空間と繋がる穴を召喚する為の刻印。

無理矢理そん中に手突っ込んで、鎌架を抜き取った。」

……何が望だ?

偶々など嘘だろう?

「……再戦しろ、白露。」

やっぱり。

でも何で今頃?

「覚えてもいないか。

明後日までに躰を休めておけ。

一騎打ちだ。 卑怯な手は使わないし、負けたら今後一切、お前の前には現れないよ。


支配下も辞めてやる。」

面倒くさいなぁ……

でも赦雨薇唖がいないと、もっと面倒な事になる。

「いいよ、かかってきなよ。」

独楽は煙草をふかしながら、無言のまま出て行った。
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