銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
哀歌――――呪縛の時




支配者と支配下のみが足を踏み入れる事を許される、鏡界の都・万華鏡。

其処に在る、支配者の寝室の望郷へと続く渡り廊下を歩む二人の男女がいた。

一人は蒼く光る髪を後ろで結っている、奇抜な赤いカンフードレスを着た、美しく妖艶な女。


もう一人は雪をそのまま写し取ったかの肌を、黒いコートで覆った、長い銀髪の男。

白にちかい灰色の瞳は鋭く、獲物を狩る白虎の様。

『七瀬さんが今日から同僚なんて、笑うしかないな。』

曇りの無い、晴れやかな声をあげた男――――独楽は微笑しながら、試験合格の通知が入った筒を大事そうに抱える七瀬を罵った。

そんな独楽に対して、青髪の美女――――七瀬は不満げな声をあげた。

『私だって、独楽くんみたいな人が先輩なんて嫌よ。』

七瀬のその一言に、独楽は自分が支配下のNo.6をもらった二年前を思い出した。

当時No.6を誇る男の首をとった瞬間……

沸き起こる大歓声、初めて人を殺めた、血にまみれた手。

握られた剣に絡まる肉片、銀の刃先に映る情けない面をした男が自分だと気付くのには、かなりの時間がかかった。

震える足に滲み出る汗と涙。

万里が駆け寄って来て、背中をさすって慰めてくれた事も、鮮明なまま記憶に残っている。

No.6の男が抜けた代わりに、嫌々、支配下に入る事になったが、万里が先輩なら別に良いとも思っていた。

支配下に入ってから万里と自分が、今の七瀬と自分の様な会話をしていた事も思い出したのだ。

『……また、赤月さん?』

小さな声で七瀬が呟いた。

万里……赤月 万里。

支配者の中で二番目の権限を持つ、No.2 新王の初の女継承者。

世界に溺愛されている彼女は、現支配者の爾来の愛をも我が物にしている。

No.1の神灯よりも、ある意味で権限を持っているに違いない。

そんな彼女に惚れているのは世界だけじゃない。

此の男……独楽 裡音も、彼女の事が好きなのだ。

叶わないと知っているが、ずっと想い続けている。
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