銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
甘い声色で唱えた赤月は、綺麗な琥珀でできた様な瞳で七瀬を覗き込んだ。

少し七瀬の方が身長が高い為、下から見上げてくる赤月は女の自分ですら魅了されそうになる。

『七瀬 香と申します。

宜しくお願いします。』

軽く会釈をし、赤月を交わすと、七瀬はダッシュで望郷から立ち去った。

赤月は何だろうと不可思議に思いながらも、七瀬の後ろ姿を一回見て、もう一度前へ足を踏み出した。






『莫迦じゃないのぉ?』
『莫迦だと思います。』

鏡界に設けられた大図書館。

津々浦々の本たちが列ぶ、どでかい本棚に囲まれた長机には、十三の椅子が。

其の内の三つの椅子に座るのは、

一人は桜色の髪に、黒い目の……十歳くらいの女の子。

猫耳のフード付きの黒いローブを着ていて、左手には絵本、右手には大きな銀色のクラリネット。

其の横に座る、流れる瀧の様な淡い金髪を長く伸ばした男。

エメラルドグリーンの瞳に長い睫、大変、端正な顔立ちをしている。

女でも憧れ、其の身に鳥肌を立たせて震撼するだろう。

桃白い肌に丁度良い黒いコート、中には白いYシャツに淡黄色のネクタイ、上には温かそうな、柔らかそうな毛糸の赤いマフラー、手には灰がかった長手袋。

分厚い革のブーツといい、首から足まで完全防寒だ。

そんな二人の真正面の男は、先程の独楽だ。

『あのな餓鬼と、人を好きになった事が無い坊ちゃんに、何で俺はここまで言われなきゃならないんだ?』

しかめっ面をしながら、独楽は煙草を吸った。

だが颯爽と桜色の髪の少女……黒無化 まこが煙草の火を素手で祓い、金髪の男……キャルナスが右手を宙に振り上げたかと思うと、目に見えない速さで動かした。

すると独楽の手に収まっていた煙草は跡形もなく粉々になって空に散らばった。

『取り方を変えると、そんな子供と、恋愛経験の無い私に、貴方は莫迦にされてるんですよ?』
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