銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「白江! 本当に違うんだ! 俺の右腕が勝手に動いて!」

間口の顔はとても真剣だった。

それでいて焦っていて。

一年前の演劇祭。

皆はクラスで一番顔がいい間口を、劇の主役に推薦した。

でもあまりにも間口の演技は下手だった。(なので間口は音響となった。)

そんな間口が、此処まで凄い演技が出来る筈がない。

嘘ではない。ではなんだ?

なにかの魔法か?

最後に魔法の詠唱を行ったのはウィオだったはず。

「あなたが間口に魔法を?」

美紗はウィオにサバイバルナイフを向ける。

「さぁ?」

ケラケラ笑うウィオ。余裕綽々だ。

それはそうだ。間口がおかしくなってしまった今、三対一も同然じゃないか。

しかも美紗には何の術もない。

(死ぬの……?こんなところで?)

絶望を感じた。

全てはこんな中途半端な所で終わるのか?


『違うよ』


え……

《キミには術がある。素晴らしい術が。》

‘神にも許されない能力……支配力が。’

【望め。そしたら能力は答えてくれる!】


「!!」

美紗の中で湧き上がってくる能力。

誰にも止められない、奇跡の力。

(私たちを守って……)

美紗と間口の間に白銀の結界が張られる。

「一日千秋 バルブラ・サンドラ」

魔法を唱えるは星野 皿。

皿の手から出て来る雷は美紗に向かって一直線に突き進む。

空を優美に斬り、風をも味方につけて。

(なんだあの結界は?見たこともない……!? いやある!!

魔法書だ、鏡界の王立図書館の!! そうあれは!!)


シェルダン家。

優れた魔法使いだけが入る事の出来る、魔法貴族。

数ある戦乱で勝ち誇ってきた。

そんなシェルダン家も、七年の時を得て落ちぶれてしまった。

きっかけは小さな物だった。

上級任務の失敗。

たったの一度の失敗によりシェルダン家は落ちぶれた。

社会から見捨てられ、時が経つ毎に、世界から忘れられて行った。

ウィオ・シェルダンはシェルダン家の最後の一人。

落ちぶれたといってもその実力は確かなのだ。

「罠だ!」

白銀の結界は牙を向いた。
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