銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
暫くの間、何も感じられなかった。

自分がいけないのは解ってる。

美紗が恐くなって、別れを切り出したのは自分。

だけど、美紗の存在は大きすぎた。

一度空いた此の空間は、此れからどうやって埋めていけばいいんだ?

「調子こいでんじゃねーよ!!」

声の方に振りむくと、集団リンチにあっている一人の男がいる、
素通りしようと思った。

ただ顔を見て見ると、同じクラスの星野 皿だってことがわかった。

しょうがない、助けるか。

バッグを地面に放り投げて、取り合えずがたいが一番でかい、
リーダー格の男に跳び蹴りを食らわす。


ドサッ


顔面に的中。

男は鼻血を出して倒れ込む。

スカッとした。

誰かに当たることで、美紗を忘れようとした。

「はぁ……お前等さ、どんだけ弱いんですか。」

瞬く間に敵を全滅させた少年は、バッグを取ると直ぐに其の場から立ち去ろうとした。

「いつっ……」

殴るのに無我夢中で、自分の怪我に気づかなかった。

金属バットで殴られた頭がキンキン唸った。

口の中の血や、地面に叩きつけられた時入った砂利の味が、凄い気持ち悪い。

「助けてくれてありがとう……、間口 吾平…君だよね?」

星野が話かけてくる。

助けた?

違う。

俺はそんなつもりじゃなかった。


ポタッ


頬を伝わる何か熱い物は涙の粒だった。

泣くなんて、久しぶりだった。

「あ……の?」

戸惑う星野、そりゃそうだろうな。

「いやなんでもねーから、さっさと髪、染めろよ。」

俺は孤児院への道に駆け出した。
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