銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「別れた。」

「なんで?」

「美紗が恐いから。」

星野は意外そうな顔をする。

まぁ誰だってそうだよな。

恐いからとか、俺が異常なんだよな。

数分後、ナックに着いてポテトを食べる。

星野は珈琲を飲む。

よく飲めるよなあんな苦いもん。

「あのさ、前から気になってたんだけどさぁ、なんで髪染めねーんだよ?」

俺がふと聞くと、星野は少し考え込む。

考え込むほど言い難い話なのか?

顔を引き締めると、星野は突然口を開いた。

「間口君には言っていいかもね。

俺さ、親いないんだ。物心ついた時から星野の小母さんと暮らしてて。

でも俺みたいな地毛が赤い奴なんて、滅多にいないじゃん。

だから、此の髪を見た親が迎えに来てくれるかなぁってさ。

有り得る訳無いんだけどさ、夢みたいなこの可能性にかけてるんだ。」

何か言いたいんだ。

自分も親が無い事とか、其の他諸々沢山。

でも……言葉が出ない。

親がいない、同じだけど違う。

星野は諦めずに親を待ってる。

対して俺は……此の環境を受け入れてる。

死んでるとは限らない、何処かにいるかも知れない親の存在を、無理矢理抹消してて。

何時から俺ってこんなに冷酷な人間になったんだろう。

「わりぃ、俺全然知らなかった。」

「良いんだよ、皆知らないんだから。間口君に初めて話した。」

笑う星野。すっごい性格いいんだな。


帰り道。

「じゃあ俺こっちだから。」

星野と別れた後、俺は孤児院に帰る。



其れから日は大分巡って、1年後。

星野とはあれ以来仲良くなって、親友ともいえる仲になった。

美紗とも一緒にいられて、幸せだ。

でも鏡界への旅で少し星野と会えなくなるのが、唯一の気がかりだった。

俺がいなければアイツはまた一人で、虐められて。

なのに再会はあまりにも早いもので。
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