銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
剣玉が間口の視界から消えたと思うと、次の瞬間、

「そん……な……」

剣玉は間口が予測していた速さを超えた、超高速で間口の腹部を抉り取ると、
静かに主人の元へと戻る。

「じゃあな吾平。」


サーッ


雨が降り始める。

愚か者を泣くが如くに。






「間口……?」

嫌な予感、美紗の心に突然現れる、モヤモヤした気持ち。

大抵それは当たっている。

「……泣いてるの? 間口……?」

昔から、何もかも洗い流してくれる間口は、天気に例えるなら雨だな、と美紗は思っていた。

でも……まさか本当に雨が間口に見えるなんて……

ましてや、間口が泣いているように見えるなんて……

自分は本当にどうかしている。






「っくしょ……ちくしょう……」

哀しく立ち上る夕日の中、降る雨は、森と共に一人の愚者まで清める。

やっと愚者は自分の愚かさに気づかされる。






『プライドや自尊心は捨てなさいな。

貴方はもっと強くならなければならない。』

魔女はそういうと皿の方へと引き返す。

『あんな出来損ないの肉体、得ても無価値よ。

今からもっともっとあの人間は成長する。

其の時に奪ってやりなさい、何もかもを。』

そう皿に言い残すと魔女は消え去った。

皿は間口に微笑むと、何時の間にか居なくなっていた。

一人になって改めて味わう屈辱感は、まだ幼い間口には苦すぎた。
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