銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「……吾平君が起きるのは、時の問題だとしか言い様がありません。

此処は、一回休んで、体制を立て直しましょう。」

鎖葉斗は間口を軽々と背負うと、七瀬に続き歩き出した。

「あ……そうだ、蒼の鍵……」

美紗は蒼の鍵の争奪に失敗した事を思い出した。

間口に護られてばっかりで、鍵一つすらまともに取れない。

自分はなんて情けないんだろう、“支配力”名ばかりの力だ。

大事な仲間……間口を守れなかった、意味が無い……

「ああ、蒼の鍵だったらウィオが持っていましたよ。」

ウィオ・シェルダン……敗北する位なら死を選ぶ……普通の人間の考え方じゃない。

まさかウィオが鍵を持っていたとは……

(鎖葉斗君はすごい……なんでこんな凄い人があたしの部下なんだろう。

あたしなんて支配者とか、本当はとっても強い能力の持ち主なのに、何も出来ない……

あたしなんかじゃなくて、鎖葉斗君が持ってる方が

良かったんだ……こんな能力……。)

美紗がどれだけ後悔しようが、何も変らないのは当たり前。

だけど、後悔すればする程また悔しさが込み上げて来た。

「あ、そういえば澄江さんはどうしましたか?」

めちるが突然言い出す。

新羅 澄江……此の新羅神社の神主にして支配人の一人。

「奥の社に寝かしといて、支配者の世界についての記憶を全部消しておいた。

だから此れからはきっと只の神社の神主として、普通に暮らすよ……きっと。」

忍が何処か寂しそうに言う。

確か忍と澄江は昔馴染みだった。然し支配者の世界の馴染み……

其の世界から抜けたのだから、もう永劫交わることは無いかもしれない。

「さぁ、次の場へ向かいましょう。」

辺りの木々たちは皆、出口に向かう美紗達を嘲笑うかの様に、
激しく夕立と共に、大きく揺れ動いていた。




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Bright red key
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