銀鏡神話‐翡翠の羽根‐
「ああ。」

素っ気無くオレが言うと、瀬木夏はオレの横に腰掛ける。

「またや、独楽っさん赤月さんの事思い出してたんやろ?」

正解。瀬木夏には嘘がつけない。

こいつの闇色の瞳は“ココロヨミ”と呼ばれる、上級悪魔の持つ眼。

心を自動的に読見取ってしまう。

例え自分自身が拒んでも。

「ウチが入ったと同時に亡くなった№2.

そっくりなんやろ? ウチと。」

マリの問いにオレは頷いた。

「マリ……万里。名前まで似とるなんてなぁ。

もしかしてウチ、赤月さんの生まれ変わりやったり。」

……万里の生まれ変わり……。

そんな奴、いるのかこの世に?

居たら……もしも居たらすぐに会いたい。

「……すまへん。気悪くしたか?」

「いや、お前のココロヨミが届かない程の心の奥で、
少し考え事をしていただけだよ。」

教書の横に一袋のパンを差し入れとか言って、瀬木夏は押し付ける。

そして立ち上がり、帰ろうとしたとき。

「独楽っさんは赤月さんの事大好きなんやねぇ。」

「……」

心の奥にしまえなかった。

今の問いの答え。

読まれてしまっただろう。

「……ウチが赤月さんになってやりたい。」

それだけ言い残すと、瀬木夏は部屋から出て行った。

……はぁ、どうしようか。

もう、帰ろうか。

いくら教書に読み耽っていても、俺が求めている答えは見つからない。


ピルルル


支配下用の携帯電話が鳴り響く。

誰だ? 今日は次から次へと支配下たちに会う。

神灯、椿、茶亜夢、まこ、恋蘭。

こんだけ濃いメンツに会ったんだから、もう嫌なんだが……

「もしもし。」

しょうがないから電話に出ると、笑い声が聞えてきた。

そいつは悪魔よりも恐ろしくて残虐な生き物。

“やぁ、独楽 裡音。元気かい?”
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