夜明け前
満員電車の車窓から見える下町の風景は今日もくすんでいた。



区画整理がされていない、似たような家々が乱雑に並ぶこの街を、祥子は結婚当初から好きにはなれなかった。



ごちゃごちゃした建売住宅の安っぽい屋根の色が祥子の暗い気持ちをますます苛立たせる。




真治のことを好きにならなければ良かった。

真治と出会いさえしなければ良かった。

そうすればこんな気持ちになんてなることもなかった。



出逢った頃は運命だと思っていたのに。



この出会いが運命ならば、今の音信不通の状態も運命なのだろうか。

だとするとなんて無駄な出会いだったんだろう。。。





線路のカーブに差し掛かったところで電車は大きく揺れ、祥子は誰かに足を踏まれた。



「いたっ」



思わず声が出てしまった。



すると足を踏んだであろうおばさんが



「ちっ、、ちょっとふらついただけじゃない!私じゃなくて運転士に言いなさいよ!」



そう言って鋭い目つきで祥子を睨み付けた。




「まずは『ごめんなさい』じゃないですか!?」



気付いたら祥子は大きな声でおばさんに食ってかかっていた。



途端に車内がざわめいた。




痛さと恥ずかしさと怒りとで涙が湧き上がってきた。


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